現世と異世界六花【元スロ外伝】

結城らぴ

10 複数の世界

「私の焼き鳥いいぃぃー!」

 私が呆然としている中、最初に聞こえたのはらぴちゃんさんの悲痛な叫びだった。

「あ、猫ちゃん待ってー」

 次に聞こえたのは、気まぐれでどこかへ行ってしまう猫を追いかけて、そのまま路地裏に入っていった甘堕の声。あの感じだと多分炎に気付いていない。気付いたら甘堕はその場からいなくなっていた……なんで。

 炎はどんどん燃え広がっていく。このままだと大規模な火災になってしまう。

「どうしよう……」

 ただらぴちゃんさんと燃え広がっていく炎を見つめることしかできないのだろうか。何か私にできることは無いのかと辺りをキョロキョロする。

 その時、空から光り輝く結晶が降りてきた。この世界に来て最初に出てきた魔王せかいと話したやつと全く同じ結晶だ。

「あー、あー、聞こえてるー?」

 マイクテストをしている声は案の定魔王せかいだった。結晶の中から響くように聞こえてくる。

「ばっちり聞こえてます……ていうか今大変なんですよ! 色々合って屋台が燃えて、どんどん周りに燃え移っていってるんです! これどうしたらいいんですか!」
「まあ一旦落ち着いてくれ、それについて今から説明するからさ」

 説明されるという言葉を聞き少し落ち着く。

「これは現実世界と異世界という、2つの世界線の要素が混じってしまった状況とよく似てる。まさかこんな状況になるとは思わなくて、六花さんには一切説明してなかったんだけどね」

 いや魔王せかい、元々こうなるかもしれない事を知っていたら最初に教えてくれよ……と心の中で思った。

「2つの世界線の要素が混じったって何?」

 私は質問をする。

「説明しやすいように、ここでは魔法の存在しない地球での世界線を『現実世界』、六花さんが元々居た魔法の存在する世界線を『異世界』とするね。まあ、この2つの世界以外にも別世界は存在するんだけど、今回の件には全く関係ないから割愛させて貰うよ」

 魔王せかいは妙に優しい口ぶりで解説を始めた。

「『現実世界』と『異世界』は元々、離れた場所に存在していて、混じってしまうなんて事は滅多に無いはずなんだ」
「でも今回、そんな滅多に無い事が起きている……ってこと?」
「そういうことだ。まあ原因は魔王である自分が間違って六花さんの魂を現世に送り込んじゃって、全世界のバランスがちょーっと崩れてしまったからなんだけど……」

 いや魔王せかい、何してるのよ。かなり壮大な事件に巻き込まれてるよ。

「で、今話した世界は混じってるとかいう話に、この焼き鳥の屋台が燃えている事と何に関係あるの?」
「まあそう焦らないでくれ」

 魔王せかいはまるで呑気にお茶会でもしながら雑談しているかのようにゆっくり話す。いやさっきからずっと屋台燃えてるから急いで欲しいんだけど!

「それで異世界でー…………あ、ウィング団長からコッソリ取り寄せた紅茶美味しいな……ごくごく……あっ、なんでもないよ六花さん」

 せかいさんがそう言った直後に、「カチャッ」とコップをテーブルに置くような物音が聞こえた。本当に向こうでお茶飲んでるじゃん。いいな。

「こほん。それで異世界で、ヌーイくんが建物とかを燃やす事件とか無かった?」

 めちゃくちゃ心当たりがある。

「異世界のヌーイくんが私の家を燃やした事がありました。それで、KOHA9さんが色々請求してくれて綺麗なピカピカのお家を作ったんだけどね!」
「やっぱりか……」
「やっぱりって……?」

 私が聞き返すと、魔王せかいさんは少し言葉を溜めてこう言った。

「異世界で起こった六花さんの家放火事件と、今この現実世界で起こっている焼き鳥屋台放火事件は繋がっている」

 ……え?

 えええぇぇぇぇぇ!?!?!?