現世と異世界六花【元スロ外伝】
結城らぴ
07 え?
え?何が起きたの?
「きゃあああ」
「人が轢かれたぞ!」
「誰か救急車を呼んで!」
横断歩道の信号は青に変わったが、その場にいた通行人は大騒ぎしている。横断歩道の先に居るピンク髪の人も驚きながら横断歩道を渡ってこちらへゆっくりと向かってきている。
あの時、甘堕に腕を掴まえられず足を止めていなかったらどうなっていたのか、想像すると怖い。私や甘堕も内心何が起こってるか理解できてなくて動揺している。……あれ?
「ウィングせんせは、どこ行ったの……?」
「本当だ、あの店長め……」
ウィングせんせの姿が見当たらない。甘堕もこの様子だとウィングせんせがどこに行ったのか知らなそう。まさかこの騒ぎに紛れて逃げた?なんてことをするんだ……まあさっきから怪しいサングラスやら怪しいバックやら、色々様子が変だったし、何をしてもおかしくないか。
ウィングせんせについて考えている間にピンク髪の人は私と甘堕にかなり接近していた。
「あの」
「わっ!?」
突然ピンク髪の人に話しかけられて、ちょっと動揺してしまった。
「あ、らぴちゃんさんじゃん!」
甘堕が親しげにそう言う。
「らぴちゃんさん?……え!?あ!」
らぴさんちゃん、横断歩道の向こう側にいて、遠いせいでよく見えなかったけど、近くで見たらこれはらぴさんだ。こんな派手なピンク髪に三つ編みをしていて身長が私と近い人は他になかなかいない。
「オフ会の会場とは結構離れてるけど、なんでこんな所にいるの?」
「実は早く着きすぎちゃったみたいでさ~。それで時間潰しの場所を探していたら、道中で近くに焼き鳥の屋台があるって聞いて、そこに向かう途中だっただったの。そしたらこんな事になっちゃって……」
焼き鳥の屋台!?私がさっき行きたいなぁって思ってたところじゃん!
「それなら今すぐ焼き鳥食べに行こう!」
食い気味に私が元気良くそう言うと、二人は口を噤む。
「あのね六花。今何が起きてるか分かる?」
「え?」
甘堕がちょっと怖いことを言う。今何が起きているか……?
「事故だよ」
「ああ……」
その会話を交わした瞬間、ピーポーピーポーというサイレンが街中に響き渡った。周りをよく見ると、白くて赤いランプが特徴的な乗り物の中から勢いよく数名ほど隊員が出てきて、声真似の人に近付いている。とても深刻そうな状況だ。
「まあ焼き鳥は元々食べたかったし、大丈夫だよ」
らぴちゃんさんはそう言うと、二人に着いてきてと言わんばかりの素振りをする。甘堕、らぴさんちゃん、そして私はそのまま横に並び、流れるように事故現場を後にした。