現世と異世界六花【元スロ外伝】
結城らぴ
06 変な奴
にしても、魂全然見つからないな。甘堕とウィングせんせと街を歩いて3分くらい。一向に出てくる気配が無い。さっきのタイミング捕まえられておけば、すぐKOHA9さんと再開できたかもしれないと思うと悔しい。
甘堕やウィングせんせと並んで淡々と足を前に動かしていると、突然後ろに引くように腕を掴まれた。驚いて振り返ると、そこには少し焦った顔をした甘堕が居た。
「ちょっと!ちゃんと前見てよ六花!」
「えっごめん」
「ほら横断歩道!今赤信号になってるでしょ?」
甘堕が指差した先には真っ赤になったランプがあって、そのすぐ下の地面には白線が何本も轢かれている。あれが横断歩道と信号?この世界では常識的な物なのかな。だとしたらやばい、自分が異世界から来たってバレてしまうかも。
「本当に今日様子がおかしいけど、大丈夫?」
「次からはちゃんと確認しなよ」
バレるどころか心配してくれていた。ありがたい!
「いいかい?信号が赤の時は自動車が飛び出してきて危ないんだぞ?ちゃんと青色の時に渡ろうね?」
「いつ轢かれて死ぬか分かんないもんねー」
しかも横断歩道の信号が赤の時はどうして渡ってはいけないのか解説してくれた。さすが友人達……略してさす友、いいかも。
そんなくだらない事を考えている時、横断歩道の向こう側から間抜けで滑舌の悪すぎる声が微かに聞こえてきた。
『僕の声真似聞いてもらっていいですかー?』
……え?なんだアイツ?
一瞬幻聴かと思った。だってこんな街中で突然『僕の声真似聞いてもらっていいですか』なんて言う人はいないはず。あ、もしかしてこの世界では常識だったりするのかな?
その『僕の声真似聞いてもらっていいですか?』って言い続けている人は恐らく成人男性。隣で信号が青くなるのを待っているピンク髪の人に永遠と『僕の声真似聞いてもらっていいですかー?』と聞いている。ちなみにその人は超困ってる様子だった。
「僕の声真似聞いてもらっていいですかー?」
「えっと……こ、声真似?」
「そうですーあ、胡蝶し○ぶの声真似できるんですよ。聞きますー?」
「あ……は、はい。聞きます……」
「○%×$☆♭#▲!※」
「え、えっと……」
「%△#?%◎&@□!&○」
「あの……」
「どうでしたかー?」
「あ、えっと。よ、よか、よかったです……」
「ありがとうございますー!」
え、ちょっとまって、これって遠くだから聞こえてないだけ?それとも本当に聞き取りが難易度高い言葉を話してる?え?どっちこれ?
とりあえず二人に確認してみよう……。
「あの声真似の人……なんかさ……」
「なんだアイツ」
「変だ」
あ、三人揃っておかしいと感じてるみたい。これは現世も、異世界も共通なんだね。
すると、あの声真似の人の目線がこっちに切り替わる。
「あ、横断歩道の向こう側にいるみなさーん!僕の声真似聞いてもらっていいですかー?」
こいつ横断歩道の向こう側にいる自分達にもちょっかいかけ始めたぞ!?嘘でしょ!?
「あーでもこっちからだと僕の声真似がよく聞こえませんねぇ。今から向こう側に行きまぁーす!」
そう言って声真似の人は大きく手を振りながら、赤信号の横断歩道を渡り始めた。その直後。
キーキー……ドン!
大きな急ブレーキ音と共に、声真似の人がトラックに轢かれた。