現世と異世界六花【元スロ外伝】
結城らぴ
01 似て非なる人物
目をゆっくりと開くと、強い日差しが視界に入ってきた。鉄筋でできたとても背の高い建造物、目の前には見たことがない衣類を着用している人々が歩いていて、周りからは無数の足音や話し声がたくさん耳に入ってくる。どうやら街中らしい。
「……?」
明らかにおかしい。この世界は、私が知る世界じゃない。見たことも、聞いたこともない幻の世界だ。
私は六花。KOHA9さんとラピちゃんと一緒に暮らしている魔法使い――のはずだった。
記憶が定かではないけど、私は恐らく死んでしまったんだ。KOHA9さんを助けたいという想い、死を覚悟して自ら暗黒魔法を食らった時の衝撃、そして最後にKOHA9さんの呆然とした顔を見た。意識が途絶える前の出来事は、全てはっきりと覚えている。
だけど気付いたら私は、この変な場所にぽつんと突っ立っていた。何が起きたのか理解できない。もしかしてここは死後の世界だったりするのかな。困惑してどうすることもできない状態で、突然後ろから話しかけられた。
「あ、六花じゃん。六花もここからバス乗るの?」
「えっと」
顔のすぐ横で手を軽く振りながら声をかけてきたのは同年代くらいの女の子。身長は私より高い。親しげに話しかけられたけど、私はこの人の事を知らないので反応に困る。でも、どこかでこの顔を見たことあるような――、あ。
「甘堕……?」
その人の顔は、友人の甘堕によく似ていた。いや顔どころではなく、話し方や声も記憶と一致してしまう。目を見開いて突然人の名前を呼んだ私に向かって、相手は苦笑いをしながら反応した。
「なに急に」
「甘堕……だよね!?ねえ、絶対そうだよね!?なんでここに居るの!?というかここは一体どこなの!?」
思わず甘堕の肩を掴んでぐらぐら揺らしてしまった。
「一旦落ち着け!まじでどうした?『ここはどこ、私は誰』みたいな事言ってさ。どこかで頭でも打った?」
「う、うーん……頭打ったどころでは無いんだけど……」
本当にここはどこ状態だし、ちょっと頭を打ったどころでは無い。なんなら暗黒魔法食らって死んだはずだし。この人は甘堕と同一人物だと思う。甘堕って呼んでも違和感を感じていないようだし。
「というか喉乾いてきたから、向こうの自販機で何か飲み物買ってくる」
「あ、はーい」
そうして甘堕は角を曲がってすぐだと思われる自販機という場所に小走りで行ってしまった。自販機ってなんだろう、この世界にある店みたいな物かな?
「とりあえず待つとしますか」
私はよく知らない別世界に飛ばされてるみたいだし、ここは安易に動かず待つのが吉だと思った。